蒼流庵蔵書あれこれ~其の六~
- 2016/08/19
- 18:10
吉村昭は、『戦艦武蔵』や『高熱隧道』といった記録文学の作家としてよく知られているけれど、私は死と虚無に包まれた初期の作品群が好きだ。
特に中篇の「水の葬列」は、異様な迫力と怖さがある。
和田芳恵は、田代三喜の碑を見に行った際、近くに墓所があったので掃苔して来たが、作品はもっと老境に入らないと味わい尽くせないような気がしている。
さぁ、その頃までボケずにいられるだろうか。
平成5~6年にかけて100冊が復刊された新潮文庫のリクエスト復刊シリーズ。
紙質もすこぶる良かったし、内容の充実ぶりも素晴らしかった。
このシリーズ中、小山清の『落穂拾ひ・聖アンデルセン』は三冊持っていたのだが、剛力彩芽主演のテレビドラマ「ビブリア古書堂の事件手帖」に登場した直後とんでもない古書価になってしまい、欲をかいて全て手放してしまった。
今はちくま文庫から復刊されたので、その内それで補おうと思っている。
あ、後に見えているのはエロビデオではないので念のため。。
朝日文庫はあまり持っていない。
『ベスト&ブライテスト』は20世紀ジャーナリズムの金字塔であるが、学歴やら何やらつまらぬものを有難がる権威主義に弱い人間は一度手に取られるが良かろう。
硬派で紙質も良いが、何故か筑摩ほどには魅力を感じない講談社学術文庫。
まぁ、でも良い本は多いよね。
カッパブックスの小室直樹シリーズ揃い。
この中では『新戦争論』と『ソビエト帝国の崩壊』辺りか。
今でも日本の安保理常任理事国入り云々の話が出る度に、『新戦争論』で展開された論理の焼き直しが登場する。
時を経て色褪せない、そういう本を自分もいつか書いてみたいと思っている。
しかし、カッパに入るとどんな内容のある本も安っぽく見えてしまうからアラ不思議。
岩波新書には時代錯誤の左翼系駄本も未だに多いが、ロングセラーとなっているものは流石の名著揃いだ。
中公新書は岩波新書に比べて自然科学系に良いものが多い。
紙質が玉石混交の岩波新書に対して、創刊から良質の紙を使い続けている辺りにも好感が持てる。
釣りが大嫌いの私の蔵書に何故か収まっている佐藤垢石。
角山栄の『時計の社会史』は、これまでに読んだ中公新書の中でも最良の一冊。
署名本なのだが、最寄駅が角山先生と同じであったこと(要するにご近所さん)を没後に知って驚いたことがある。
PHP文庫にも良い本が沢山あるのだが、それを上回る数の安っぽい本が入っているのは残念だ。
先頃亡くなった岡崎久彦さんのシリーズなど、日本の近代史を理解するのに非常に有用な本だと思う。
安岡先生の本は、随分多くの読者を持っているようだが、あまり関心して読んだものは無い。
以上で蔵書紹介を終わる。
紙の劣化を防ぐために梱包した状態で保管しているものも多いし、本棚は基本的に二重になっている為、表側の本しかお見せ出来なかったが、普段よく手にするような書物は、たいてい前面に出しているので、蒼流庵蔵書の大凡はこれで理解して頂けるものと思う。
森本哲郎さんの本棚のように硬派でもないし、期待されたような珍本が殆ど無いこともご了解頂けただろう。
え?他にも隠しているのがあるだろう?
まぁ、それはね、、ウフフ
スポンサーサイト