神蓍あれこれ
- 2017/03/10
- 23:31
簡易立卦具には、擲銭や真勢中州が用いた円蓍などもあるが、もっとも普及しているのはやはり八面賽であろう。
象牙製が主流だった一昔前には、この立卦具は簡易といっても筮竹以上の値段だった訳だが、最近では樹脂製の安価なものが出回るようになったおかげで、随分買いやすくなったものだ。
それでも、庵主の知り合いの企業が製造されていた易八大先生の八面賽などは、店頭では6000円くらい(八面賽二個と六面賽一個)だったかと記憶しているが、最近では楽天で一個500円の八面賽が売られているので、もう八面賽の殿様商売は出来なくなったのではなかろうか。
八面賽が安価になって何より嬉しいのは、中筮用に六個揃えるというようなことが気軽に出来るようになった点で、六個となれば象牙製は言わずもがな、一昔前の練物賽でさえ、それなりの出費を覚悟せねばならなかったろう。
もちろん、庵主が八面賽を用いているのは、単に入手が容易になったからというだけの理由ではない。
筮竹で立卦する場合、どうしても“手癖”が卦の出現率に影響を及ぼしそうな不安を拭いきれないのに対し(実際にはそんな心配は無用だとはいうのだが)、賽で立卦すればより出現率が均等になりそうな気がするからでもある。
また、高島嘉右衛門の言うように、精神集中の観点から筮法は簡潔な方が良いのだという立場に立つなら、立卦具はやはり筮竹より擲銭や円蓍、賽の方が良いことになろう。
ところで、実際にやってみると、擲銭はカチャカチャいうのがちょいと気になるし、円蓍は擲げた円顆を選り分けて六爻に当てはめる手数が馬鹿にならず、個数が多いだけに、とんでもないところに飛び散ること屡々で、飛散があまりにも悲惨な状況を招くことが少なくないのも大きな欠点だ。
となれば、賽であるが、以前から何度か書いてきたように、庵主は神蓍を用いて立卦するのを常としている。
神蓍は、根本通明の門人で後に断易に転向した九鬼盛隆(1869~1941)が発明したものであり、九鬼には此の立卦具を解説した『神蓍弁義』という著述がある。
この本の8頁では、
余が長年月間自分及門人等の実験に徴し、其統計率に依れば実に変態な結果を示してゐる。
即ち擲銭法が最も上位で次ぎが略筮、六変筮といふ次序になつてゐて其他は多く実験を積まぬが皆不結果が多いやうである。
是を以て推考するに正格の卦を得るには筮法の理義に合ふと否とは問題でなく、揲筮の際感通の如何は無我の境裡に揲筮するにあることは申すまでなきことで、詮じ詰むれば得卦の正否は筮を執る時間の短き程神人感通し正卦を得られるといふ理由が立派に証明されるのである。
とあって、やはり精神集中の観点から、立卦はなるだけ短時間に行うべきと断じている。
ところで、一般に神蓍といえば桐製のイメージではないかと思うが、『神蓍弁義』では、
(神蓍)の容器を特に透明なるセルロイドを撰びしは、人の手掌は実に触覚微妙にして、拍手、合掌、握手、挙手等、時の古今を問はず国の東西を論ぜず、一様に其敬誠表はす妙機を示して居る。
故に本器の方寸を掌中に納るるを度とし、而も其透明は障壁あるの感を減ぜしめ能く掌裡の霊氣に触るる思ひを起さしめ、及び外方より透見するに便ならしめたものである。
とあり、なんと素材はセルロイドとなっている。
当時は、桐材よりセルロイドの方が珍しかっただろうから、それなりに高級感を感じさせる素材だったのかもしれないが、今セルロイドで作ったら、ちょっと残念な感じになってしまうに違いない。
ところで、この神蓍というのは、まともに購入すると結構高価なものである。
原書房で売っているのは、三部屋のものが12000円で、六部屋のものは(大)なら25000円もする(ちなみに、昭和4年に出た九鬼の本の巻末にはちゃっかり神蓍の宣伝が載せられており、上製の場合、三部屋のもの三円、六部屋のものは5円とあり、特製はそれぞれ四円・七円五十銭とある。米価を基にして現在の価値を試算してみると、昭和4年は一俵10円、平成15年は一俵13820円であるから、上製の略筮神蓍はざっと4146円となる。物価の換算は何を基準にするのか難しい点があるが、仮に米価を基準にするならば、現今の占具店は暴利を貪っていると断じて差し支えなかろう)。
蓋にアクリル板をはめ込んであり、各部屋も八角形になるような細工がしてあるから、それなりに手間はかかっていそうだが、楽天賽のように気軽に買える値段ではなかろう。
そこで、これを作ってみようと思いたった。
庵主のデイリーポータルノリなら、自作と行きたいところではあるが、日曜大工はそれほど得意ではないため、外注である。
カミングアウトすると、庵主には酒器のコレクターというもう一つの顔があり、桐箱を安価に作成してくれる箱屋を知っていたので、そこに作成してもらうことを思いついた次第。
蓋にアクリル板を貼るのは、コストが上昇する上、傷でもつくと汚くなるかと思い、取りやめたが、賽と部屋の大きさとのバランスを決めるのは意外に大変で、八面賽はまだ良いのだが、六面賽は思いのほか回転しにくく、程よいサイズ(全体を掌中に収めた際のフィット感も重要)を決定するのに何度か試作を繰り返した。
それから、振っている時のカチャカチャいう音がどうにも耳障りで、これはフェルトを内貼りにすることでの解決を図った。
地道な内職作業だが、これは中々目が疲れる。
フェルトというのは、上からチャコで線を引くことが出来ないので、セロテープを貼った上に油性マジックで印をするという方法を思いついた。
コスト削減のため、ダイソーのフェルトも試したが、安物は繊維がポロポロ落ちやすい上、少し引っ張ると伸びてしまうので、結局は安物買いの銭失いになることが判明。
2017年3月現在で、既に十数個作成したから、もう作業は手慣れたものだが、それでも90分くらいはかかる結構な労働である。
また、フェルトを貼る場合、中の仕切りの高さも重要であることが判った。
略筮なら必ずしも神蓍は不要かもしれぬが、賽が六個となると、神蓍の価値が発揮されて来よう。
十二面賽を用いた大四象筮用の神蓍であるが、中の賽が結構重いので、振った時の音は「ゴトゴト」という感じだ。
小四象筮の場合は、一部屋ごとに小さい六面賽が三つ入る訳だが、賽があまりに小さいと仕切りから飛び出して隣の部屋に入ってしまうことが判明し、こちらはむしろ神蓍そのものより、適度なサイズの六面賽を選定するのに骨が折れた。
使わないので、人にあげてしまったが、四遍筮用の神蓍も作ってみたことがある。
アストロダイスにも便利かと思い、少し大きめの賽が入るサイズも作成してみた。
このADボックスは、青木良仁先生を通じて、芳垣宗久先生にもプレゼントしたことがあるが、なかなか好評だったようだ。
こちらは、昔、四国のさる実占家の依頼に応えて作成したもので、横井伯典先生の“分占箱”である。
競馬のレースなどで、一度に複数を立卦するのに使うものらしい。
横井先生は段ボールか何かで自作されていたと聞いたことがあるけれど、それはいくらなんでもあんまりだろう。
ところで、庵主が神蓍を用いるのには、本当はもっと重要な理由があって、それは求占者が目の前に居る時は、立卦は求占者にしてもらう方式を採っている為だ。
この方が手応えの良い卦を得る場合が多いということに気づいてからの、或る種の秘伝ともいえる部分なのだが、この点は近いうちに詳述したいと思っている。
象牙製が主流だった一昔前には、この立卦具は簡易といっても筮竹以上の値段だった訳だが、最近では樹脂製の安価なものが出回るようになったおかげで、随分買いやすくなったものだ。
それでも、庵主の知り合いの企業が製造されていた易八大先生の八面賽などは、店頭では6000円くらい(八面賽二個と六面賽一個)だったかと記憶しているが、最近では楽天で一個500円の八面賽が売られているので、もう八面賽の殿様商売は出来なくなったのではなかろうか。
八面賽が安価になって何より嬉しいのは、中筮用に六個揃えるというようなことが気軽に出来るようになった点で、六個となれば象牙製は言わずもがな、一昔前の練物賽でさえ、それなりの出費を覚悟せねばならなかったろう。
もちろん、庵主が八面賽を用いているのは、単に入手が容易になったからというだけの理由ではない。
筮竹で立卦する場合、どうしても“手癖”が卦の出現率に影響を及ぼしそうな不安を拭いきれないのに対し(実際にはそんな心配は無用だとはいうのだが)、賽で立卦すればより出現率が均等になりそうな気がするからでもある。
また、高島嘉右衛門の言うように、精神集中の観点から筮法は簡潔な方が良いのだという立場に立つなら、立卦具はやはり筮竹より擲銭や円蓍、賽の方が良いことになろう。
ところで、実際にやってみると、擲銭はカチャカチャいうのがちょいと気になるし、円蓍は擲げた円顆を選り分けて六爻に当てはめる手数が馬鹿にならず、個数が多いだけに、とんでもないところに飛び散ること屡々で、飛散があまりにも悲惨な状況を招くことが少なくないのも大きな欠点だ。
となれば、賽であるが、以前から何度か書いてきたように、庵主は神蓍を用いて立卦するのを常としている。
神蓍は、根本通明の門人で後に断易に転向した九鬼盛隆(1869~1941)が発明したものであり、九鬼には此の立卦具を解説した『神蓍弁義』という著述がある。
この本の8頁では、
余が長年月間自分及門人等の実験に徴し、其統計率に依れば実に変態な結果を示してゐる。
即ち擲銭法が最も上位で次ぎが略筮、六変筮といふ次序になつてゐて其他は多く実験を積まぬが皆不結果が多いやうである。
是を以て推考するに正格の卦を得るには筮法の理義に合ふと否とは問題でなく、揲筮の際感通の如何は無我の境裡に揲筮するにあることは申すまでなきことで、詮じ詰むれば得卦の正否は筮を執る時間の短き程神人感通し正卦を得られるといふ理由が立派に証明されるのである。
とあって、やはり精神集中の観点から、立卦はなるだけ短時間に行うべきと断じている。
ところで、一般に神蓍といえば桐製のイメージではないかと思うが、『神蓍弁義』では、
(神蓍)の容器を特に透明なるセルロイドを撰びしは、人の手掌は実に触覚微妙にして、拍手、合掌、握手、挙手等、時の古今を問はず国の東西を論ぜず、一様に其敬誠表はす妙機を示して居る。
故に本器の方寸を掌中に納るるを度とし、而も其透明は障壁あるの感を減ぜしめ能く掌裡の霊氣に触るる思ひを起さしめ、及び外方より透見するに便ならしめたものである。
とあり、なんと素材はセルロイドとなっている。
当時は、桐材よりセルロイドの方が珍しかっただろうから、それなりに高級感を感じさせる素材だったのかもしれないが、今セルロイドで作ったら、ちょっと残念な感じになってしまうに違いない。
ところで、この神蓍というのは、まともに購入すると結構高価なものである。
原書房で売っているのは、三部屋のものが12000円で、六部屋のものは(大)なら25000円もする(ちなみに、昭和4年に出た九鬼の本の巻末にはちゃっかり神蓍の宣伝が載せられており、上製の場合、三部屋のもの三円、六部屋のものは5円とあり、特製はそれぞれ四円・七円五十銭とある。米価を基にして現在の価値を試算してみると、昭和4年は一俵10円、平成15年は一俵13820円であるから、上製の略筮神蓍はざっと4146円となる。物価の換算は何を基準にするのか難しい点があるが、仮に米価を基準にするならば、現今の占具店は暴利を貪っていると断じて差し支えなかろう)。
蓋にアクリル板をはめ込んであり、各部屋も八角形になるような細工がしてあるから、それなりに手間はかかっていそうだが、楽天賽のように気軽に買える値段ではなかろう。
そこで、これを作ってみようと思いたった。
庵主のデイリーポータルノリなら、自作と行きたいところではあるが、日曜大工はそれほど得意ではないため、外注である。
カミングアウトすると、庵主には酒器のコレクターというもう一つの顔があり、桐箱を安価に作成してくれる箱屋を知っていたので、そこに作成してもらうことを思いついた次第。
蓋にアクリル板を貼るのは、コストが上昇する上、傷でもつくと汚くなるかと思い、取りやめたが、賽と部屋の大きさとのバランスを決めるのは意外に大変で、八面賽はまだ良いのだが、六面賽は思いのほか回転しにくく、程よいサイズ(全体を掌中に収めた際のフィット感も重要)を決定するのに何度か試作を繰り返した。
それから、振っている時のカチャカチャいう音がどうにも耳障りで、これはフェルトを内貼りにすることでの解決を図った。
地道な内職作業だが、これは中々目が疲れる。
フェルトというのは、上からチャコで線を引くことが出来ないので、セロテープを貼った上に油性マジックで印をするという方法を思いついた。
コスト削減のため、ダイソーのフェルトも試したが、安物は繊維がポロポロ落ちやすい上、少し引っ張ると伸びてしまうので、結局は安物買いの銭失いになることが判明。
2017年3月現在で、既に十数個作成したから、もう作業は手慣れたものだが、それでも90分くらいはかかる結構な労働である。
また、フェルトを貼る場合、中の仕切りの高さも重要であることが判った。
略筮なら必ずしも神蓍は不要かもしれぬが、賽が六個となると、神蓍の価値が発揮されて来よう。
十二面賽を用いた大四象筮用の神蓍であるが、中の賽が結構重いので、振った時の音は「ゴトゴト」という感じだ。
小四象筮の場合は、一部屋ごとに小さい六面賽が三つ入る訳だが、賽があまりに小さいと仕切りから飛び出して隣の部屋に入ってしまうことが判明し、こちらはむしろ神蓍そのものより、適度なサイズの六面賽を選定するのに骨が折れた。
使わないので、人にあげてしまったが、四遍筮用の神蓍も作ってみたことがある。
アストロダイスにも便利かと思い、少し大きめの賽が入るサイズも作成してみた。
このADボックスは、青木良仁先生を通じて、芳垣宗久先生にもプレゼントしたことがあるが、なかなか好評だったようだ。
こちらは、昔、四国のさる実占家の依頼に応えて作成したもので、横井伯典先生の“分占箱”である。
競馬のレースなどで、一度に複数を立卦するのに使うものらしい。
横井先生は段ボールか何かで自作されていたと聞いたことがあるけれど、それはいくらなんでもあんまりだろう。
ところで、庵主が神蓍を用いるのには、本当はもっと重要な理由があって、それは求占者が目の前に居る時は、立卦は求占者にしてもらう方式を採っている為だ。
この方が手応えの良い卦を得る場合が多いということに気づいてからの、或る種の秘伝ともいえる部分なのだが、この点は近いうちに詳述したいと思っている。
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