『周易裏街道』と諏訪山房

易歴のそこそこ長い方なら、“天下の奇書”『周易裏街道』を知らぬ者は一人として居まい。

かつてはべらぼうな古書価で知られていたこの書物も、2002年に東洋書院の英断で復刊されて容易に入手出来るようになったとはいえ、その復刻版もまた暫らく版元品切れの状態が続いてジワジワと古書価の上昇を見せていた。

が、今夏ようやく再版されて、古書価の更なる高騰を待って転売しようと目論んでいた蔵書家諸氏を愕然とさせたことは記憶に新しい。

蒼流庵蔵書には、この東洋書院版は無い。

写真は、以前御法川先生から恵与されたものであるが、何でも昔紀藤先生のところに通っていた女性が喧嘩別れして、「易の本などもう見たくもない」と、無理やり押し付けて来たのだという。

御蔭でこの希少な版が我が蔵書に巡って来た訳だ。

『周易裏街道』は霊学を以て易を解したという点で難解な奇書とされているのだが、易に取り組む以前に霊学を研究した時期のある庵主には、さして珍奇な書物とは映らなかったし、むしろその点ではいささか物足りない内容であったことを白状せざるを得ない。

ただ、具体的な占法上のヒントも散見され、本書によって蒙を啓かれた点が幾らかあることも事実であるが。

旧諏訪山房

『周易裏街道』は昭和30年11月1日から毎火曜日の夜、諏訪山房にて行われた講義を、門人数人が筆録編集したものだ。

仁田丸久先生（1900～1973）が当時住まわれていた諏訪山房は、戦前の建築ということだが、驚くべきことに、現在も略そのままの姿で残されている（玄関前の坂は1958年の『赤い波止場』のロケに使われたことがあり、石原裕次郎も2度訪れているという）。

旧諏訪山房を探しに神戸まで出かけたのは、つい先日のことであるが、奇蹟的な偶然が何度も重なり、いとも簡単に辿り着くことが出来たうえ、同日に当初の予定に無かった掃苔までもが実現したのは、間違いなく霊術家であった仁田先生の霊が庵主に感応したものであると思う。

掃苔に手を染めて9年近くになるが、これほど奇蹟的な印象を残した掃苔は他に無い。

先生はクリスチャンであられたので、個人の墓所はなく、御遺骨は教会の廟に納められている（掃苔家としては若干物足りなさを感じざるを得ない）。